研究テーマ

1.水族寄生虫の多様性・生態・共進化過程の解明

 わが国は,先人の努力によって,魚類寄生虫学が世界で最も進んだ国のひとつに数えられます。しかし,これまでの研究を見てみますと,過去に寄生虫が調べられた魚種は,4100種を超すわが国の魚類相のほんの一部に過ぎません。水生無脊椎動物の寄生虫に関しても,分類学的研究はほとんど行われていません。また,生活史や宿主との関係など,水界における寄生虫の生態学的研究は極めて遅れています。さらに,水産養殖の現場で,寄生虫が魚類の疾病や斃死の原因となることがありますが,多くの場合,それら寄生虫にどのように対処すべきか,明らかではありません。つまり,水生生物に見られる寄生虫に関しては,基礎・応用面ともに多くのことが未知であり,早急に取り組まなければならない研究課題が山積しているのが現状です。
 こうした状況に鑑みて,わが国の水生生物に見られる様々な寄生虫に関する研究を行っています。主要寄生虫であるカイアシ類,単生類,ヒル類,吸虫類,線虫類,条虫類などを対象に,その多様性と生態に関する研究を行っています。また,寄生虫は,宿主とともに進化していますので,生物の進化を考えるモデル生物としても寄生虫をとらえています。そして,こうした研究を通じて,水生生物の寄生虫に関する学問領域(=水族寄生虫学)を発展させていくことを目指しています。

2.外来水族寄生虫の生態,特に日本の水界生態系に与える影響評価

 内水面(淡水域)の増殖を含む漁業生産において,最も大きな脅威となっているのは、アユの冷水病の蔓延と,ブラックバスやブルーギルなど外来魚の存在です。彼らの急激な分布拡大と在来魚への大きな捕食圧は,内水面の漁業生産において極めて憂慮すべき事態となっています。
 外来生物の影響に関して忘れてはならないのは,持ち込まれる魚病細菌や寄生虫などの病原因子です。しかし,甚大な病害を与える微生物性因子に比べて,寄生虫に関する研究はほとんどなく,分類や生態に関する知見は極めて限られています。また,外来種苗によって日本に持ち込まれた寄生虫が,わが国の海面養殖で被害を及ぼしている例がすでに知られ,大きな問題となっています。
 そこで,外来生物によって持ち込まれた寄生虫が日本の水界生態系に及ぼす影響評価とこのことに関するガイドライン作成を目的として研究を行っています。そして,研究の第1歩として,わが国の内水面に広く分布する外来魚で,採集が容易なために定量的研究が可能なブルーギルをモデルとして,その寄生虫相の解明と主要寄生虫の生態研究を実施しているほか,海産の外来生物に由来する寄生虫に関する研究も行っています。

3.寄生虫を生物標識として活用した水産増殖対象種の生態解明

 寄生虫は宿主の生活様式や生態を示す「生物標識(生物指標)」として,さまざまな水生生物の資源研究や生態研究に活用されてきました。寄生虫は,「宿主の生活を映す鏡」と言われています。しかし,日本でまだ十分な研究が進んでいませんので,わが国の栽培漁業種を対象に,「生物標識」としての寄生虫の活用に関する研究を始めています。具体的には,寄生虫を「生物標識」として活用して,瀬戸内海におけるメバル類やタイ類の生態研究を開始し,多くのデータを蓄積しつつあります。
 また近年,資源が著しく減少したニホンウナギに対しても,この種が生態学的な3型(海ウナギ,河口ウナギ,川ウナギ)を有することに注目して,寄生虫を「生物標識」に用いて,ニホンウナギの生態研究を実施しています。